(韓国・ハンギョレ紙社説 2007年11月25日)
http://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/252590.html
17代大統領選挙、選択基準は過去ではなく、未来だ
○ 新大統領の課題は、「国民の、生きることの質の改善と韓半島の平和と安全」だ
今日、候補者登録を締め切りで、17代大統領選挙の公式選挙戦が始まった。有権者は、24日以後 今後5年、わが国を指導する新しい大統領を選択しなければならない。どの大統領選挙が重要でないのか、ではないが、政府樹立60年を目前にした今回の選挙は、過去を回帰するのか、それとも、隊伍を整備して未来に前進するのかを選択する、重要な意味を秘めている。
現時点で新大統領が、力と知恵を出さねばならない課題は、大きく二つに圧縮することが出来る。国民の命(生きること)の質の改善と、韓半島の平和と安全の増進が、それである。過ぎる10年間、我々は外為危機( 訳注・1997年タイのバーツ下落から始まった通貨危機によってIMFの介入を許し、韓国資本とキム・デジュン政権は、韓国資本主義の危機を労働者階級へ犠牲転嫁で乗り切った。)と言う、未曾有の国家的災難を乗り越えた。しかしその過程で、社会の両極化という副産物を生んだ。競争で生き残った企業は、体質が強化され成長を謳歌したが、そのパイは、等しく分けられなかった。競争に押された中小企業と自営業者たちは、限界状態であえいで、非正規職の仕事程度で労働者の命は、やはり疲弊した。
その結果中産層は没落した。こんな現実を克服する為に最も必要なことは、質の高い職場を産出して、社会安全網をもっと緻密にして、国民の生きる質を改善することが出来る、新しい経済のパラダイム(範例)を探し出すことである。
新しい経済環境の朝鮮に、南北関係を初めとした韓半島の周辺情勢が大きな影響を及ぼすことは、世上、強調する必要も無い。新たな年は、韓半島が対決の歴史にピリオド打って、平和体制を構築する可能性を開く重要な時点だ。
六者会談は、単純に北韓の核廃棄だけを目的とするのではない。会談のもう一つの最終目標である、北-米関係の正常化は、韓国戦争(訳注ー朝鮮戦争)を終結する意味を超え、新しい東北アジアの平和構図の土台を作る仕事でもある。北韓を敵対視してきた米国と日本の、態度転換と北韓の平和意思など韓半島周辺環境は、その、どの時よりも良好だ。こんな時、間違った指導者を選択して、われわれの運命と繁栄を左右することに、我々自身を傍観者や妨害者に転落させるのはだめだ。
品格と道徳性は、指導者の与件だ
選挙の重要性を心に留めて、大統領選挙版をみれば、失望して相手はいない。
重大な課題に対する真摯な論議は無論、初歩的な政策討論さえ成し遂げられていない。最も大きい理由は、イ・ミョンパク(李明博)候補の道徳性に対する疑問が消えないことだ。この候補の道徳性の物議は、政党政治の根幹を揺るがす“スペア候補”の登場まで呼んできた。(訳注・ハンナラ党元党首、イ・フエチャン・李会昌のこと。)こうだと 所謂、汎与党圏候補者が新しい面貌を見せることも無い。選挙日が近づくほど、むしろ有権者たちが、選択のいきさつ(筋道)を掴めないわけだ。
しかし、選択が難しいと言って、原則や、選挙自体を放棄しては駄目だ。大統領は国家の将来は無論、我々自身の未来の人生に直接影響を及ぼすからだ。そうだから、選択の一番目の選択の基準は、過去ではなく未来でなくてはならない。
自分自身の命と子孫たちに譲るこの国の、望ましい姿を描いてみて、それに最も近接したビジョンと、それを実現する能力を備えた人物を選択しなければならない。また、一つ心に刻む一節は、大統領は国家指導者という点だ。国家指導者へは、実務能力や推進力だけではなく、品格と道徳性が要求される。道徳性と品格を忘れた指導者は、社会の原則と綱紀を打ち立てることは出来ない。 (訳 柴野貞夫)
解説
12月19日の韓国大統領選挙の趨勢によっては、東北アジア(極東アジア)の、平和構築の前進を妨げるかも知れない。
韓国民衆は、1987年「6月民主化抗争」によって、40年間に亘る民衆弾圧国家、軍事独裁体制に終止符を打ち、形式的民主主義の勝利を勝ち取った。しかし、最初の5年間は、軍事独裁の生き残りであるノ・テウ(盧泰愚)が、民衆弾圧の歴史を封印した擬似民主主義にすぎず、次の5年は、キム・ヨンサム(金泳三)の文民政権による「開発独裁」と言う、働く民衆へのより過酷な支配体制だった。
6月抗争の主役である、反独裁政治家、学生、知識人、労働組合活動家の、政府の登場は10年後のキム・デジュン(金大中)政権まで待つこととなる。しかし、軍事独裁政権によって死刑を宣告され投獄されたキム・デジュンは、資本主義の擁護を、なによりも重視する民主主義者でもある。1997年のIMF介入直後に政権についたキム・デジュンは、過去軍事政権による犯罪究明と南北和解に手をつけるが、資本の危機を労働に転嫁する政策をためらわなかった。増えつづける非正規労働者と労働権の擁護に対しては冷淡であった。
2003年、ノ・ムヒョン現政権と、選挙を前に解党した与党『開かれたウリ党』は、この5年間、軍事独裁を清算し、南北和解を前進させ、韓国の民主主義体制の確立に最も努力した政権ではあるが、新自由主義と韓米自由貿易協定の下で、労働者階級と農民、自営業者の生活の危機をうみだした。
軍事独裁政権の歴史を引きずる、保守ハンナラ党候補である李明博は、3大紙世論調査で40%の支持率である。ハンナラと保守勢力は、50%を越える非正規労働者を作り出している資本家階級の責任を棚上げして、金大中から盧武鉉にいたる10年を、経済の停滞と国民生活の悪化を生み出した10年だと批判している。他方、戦闘的労働者を結集する民主労総を基盤とする、民主労働党は、クオン・ヨンギル(権永吉)候補を立て、現政権の南北和解と極東平和構築の政策を支持するが、政権が非正規労働者の権利と労働権の擁護を否定していると批判している。政権与党の流れを汲む、大統合民主新党のチョン・ドンヨン(鄭東泳)候補は、旧ウリ党を一つに糾合できないまま、15%の支持率で低迷している。
ハンナラ党の勝利の可能性が大きいことは、南北和解の進展、韓国民衆の諸権利の擁護、軍事独裁の歴史清算、極東アジアの平和構築にとって極めて深刻な事態といわなければならない。
しかし、ハンギョレが指摘する様に、ハンナラの李明博は、自身の土地売買疑惑や株価操作疑惑によってその社会的「道徳性」に問題を持った人物である。彼がヒョンデ(現代)財閥の企業家時代、株価操作疑惑を行ったとされる時の中心人物・キム・キョンジュンの取調べが進行中である。捜査しだいによって事態が大きく変化するかもしれない。ハンギョレは、その時のスペアが、李会昌だと指摘している。
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